「うわ〜!」
「何か出てくれれば、なお更良いんだが…。」
彼にしては最高の誉め言葉を呟く。

クリスマス休暇を利用して、デイビス一家とまどか、リンの6人は
山奥のホテルにやってきた。
ジーンに言わせると、「たまには皆でぱーと騒ごうツアー」だそうで、
彼が半年前からマーティンにそれとなく持ちかけてきた計画だ。
「今回はジーンの押しに負けたなあ。」
「マーティンも甘すぎるんだ。第一…」
「ねえ〜!見て見て!!おっきなクリスマスツリー!」
「すげー!」
ナルとマーティンに構いもせず、まどかとジーンはフロアの吹き抜けに設置された、
3mはあろうかという巨大なクリスマスツリーに嬉々としている。
「私どもまでご一緒させて頂いてもよろしいのでしょうか?」
「何を今更言ってるんだい。今回はナルの奢りだから、僕らは関係ないよ。」
遠慮がちに言うリンに、マーティンはにこやかに答える。

「クリスマス旅行という案はいいけど、そんな遠くまでこの大人数。
しかも五ツ星ランクのホテルじゃないか。流石にそれはキツイなあ。
新年にも出かけるし…。」
とマーティンは苦笑する。
「それでね、この前ナルが自動車屋さんからお礼貰ってたじゃない。
ナルはカメラとセンサー買うって言ってたけど、たまには家族サービスも
いいんじゃないかな〜、なんて。」
"自動車屋さん"というのは、アメリカの某大会社のことだ。
先月行方不明になっていた息子を、ナルが救出(厳密にいうとサイコメトリで)
した事で、父親である"自動車屋さん"の"気前の良い"社長が、
ナルとSPRに巨額の寄付を申し出たのだ。
「少しくらいは旅費に使っても減ったうちに入らないよ。」
「それもそうだな。」
そういう訳で、「自称"救出にちょっぴり協力した(気分の)"兄」が、
弟を拝み倒して今回の旅行が決定したのだ。
殺し文句は、「断るなら、タレントオーディションに超絶美形サイキッカーって、
ナルを応募するよ?」だった。

何だかんだで、面倒くさそうにしていたナルも、ここ一連の"自動車屋さん"騒ぎで
疲労していたのだろう。休暇なら良い、と言って、
結局彼の奢りで今回の旅行ということになった。
「イブニングドレスも持ってきたのよ〜。ロンドンまで探しに行っちゃったわ。」
「ディナーが楽しみだなあ!ここの料理は一流で有名だからさ。
あ、シャンパンも飲みたいなぁ。」
「ケーキ楽しみだわぁ!」
「ほらほら、貴方達。お部屋に行くわよ。」
3人の"子供"の母親となりつつあるルエラが、エレベーターの前でボーイと
待っている。
「はあい!」と、ジーンと"娘"は元気な声で返事をして駆けて行った。

「ねえ、ナル!テーブルの上の小さいクリスマスツリー、
持って帰ったら怒られるかな?」
「何をそんな貧乏くさいことを…」
自らの部屋で、半ば呆れながら、ナルは黒の上着に袖を通す。
「ちゃんとした服着るの久々だ。」
「いつもちゃんとしてないからな。」
「どういう意味さ! あ、ネクタイ取って。」
「正装で食事だなんて、聞いてなかったぞ。」
そういいながら、ジーンの方にネクタイを放る。
「サンキュ。いいじゃん"たま"にはさ。」
「僕は"たま"じゃない。先週も駆り出された。」
そうだっけ?とにこやかに返し、ネクタイと格闘する。
「相変わらず締めるの下手だな。」
「ナルもね。」
2人とも、ネクタイやカフスといった正装用品が苦手だった。
「ネクタイとスーツは、集団に属し、服従することを意味する」
というのがナルの持論だが、単に面倒くさいから、という理由で苦手であることを、
ジーンは知っている。
そこへ軽いノックの後、ポール・スミスでキメたリンが顔を出す。
「準備はよろしいですか?」
「うわー、リンカッコいいねえ!それ、この前まどかと買いに行ってたヤツ?」
「半ば強引に決められました。」
「高かったんじゃない?」
「たまにはいいでしょう。とのことでした。
まったく、誰の財布だと思っているのやら…。」
2人の光景が目に浮かぶようで、ジーンはくすりと笑った。

「メリークリスマス!」
硬質な音を立てて、乾杯する。
マーティンは黒のハイネックにジャケット。ルエラは瞳の色と同じ、深い紫のドレスに
白のパシュミナ。まどかは"これかもう一つので3時間は悩んだ"という赤のドレス。
ナルとジーンは結局ネクタイを諦め、それぞれが思い思いの服装で卓を囲む。
「本当にナルには感謝してるわ。美味しい料理と、ホテルを有難う。」
「そうね、私までお呼ばれしちゃって…。」
「本当はもっと呼びたかったんだけどね。」
少し残念そうにジーンは言って、シャンパンをおかわりする。事実、あと数人同行する
予定だったが、どうしてもスケジュールが合わず、"クリスマスは独り身なので鬼の
ように暇"なまどかと、たまたまその場に居合わせた"同じく暇"なリンが
クリスマスツアーに参加することになったのだ。
「お前が払うんじゃないだろう。」
「これもナルのお陰だな。今度はニース辺りにも行ってみたいなあ。」
「…まだたかる気ですか、教授?」
「ナル、新しいノートパソコンも2台入れましょう。」
すかざずぽつりと言ったリンのセリフが絶妙で、皆がどっと沸いた。

「あ〜、楽しかった!」
部屋に帰るなり、ジーンはベットにダイブする。
「こっちはくたくただ。」
「そんなこと言ってさ、久々に手品を皆に見せて、けっこう嬉しそうだったじゃない。」
「お前な…。あんなにイキナリ言うやつがあるか。」
「"では場も盛り上がってきた所で、グレイティストマジシャン・オリバーの登場です!"
って、いいじゃん〜。最近こっそり練習してたの知ってるんだよ?」
「いいからさっさと風呂に入って寝ろ。」
「オヤスミ〜」と、ひらひらと手を振りながら、上着を脱いでそのままの格好で
ジーンはベットに潜り込む。
やれやれ、と溜息をひとつついて、ナルは彼の脱ぎ散らかした上着と靴を片付ける。
「そんなにだらしないと、サンタも来ないぞ。」
「十分いい子だから、少々見逃してくれますよ〜。」
「オヤスミ。」
「おやすみ。メリークリスマスイブ。」
「阿呆。」

翌朝、日が昇る前に目を覚ましたジーンは、着るものもとりあえず、
顔も洗わずに外へ飛び出し、すぐに頬と耳を真っ赤にして、部屋に戻ってきた。
両手にいっぱいの雪を抱えて。
「ナ〜ル!!オハヨウ!朝だよ!メリークリスマス!メリーホワイトクリスマス!!」
「……うるさい。」
「なにまだ寝てんだよ。さあ、早く着替えて!」
そう言ってナルの布団をめくり、雪をナルの顔に投げつける。
「何するんだ!まだ日も昇ってないじゃないか!」
「いいから早く!」
大急ぎでナルの服の支度を手伝い(ほとんどジーンが無理やり着せてやるようなもの
だったが)、エレベーターに乗り、ナルを引っ張って広いホールを突き抜け、
フロアを横切った。
大きなドアを開けて、ジーンは歓声をあげる。
「ほら!朝起きたらこんなに積もってたんだ!!」
「僕はいい。」
「何言ってんだよ。ホワイトクリスマスなんて、久し振りじゃないか!」
「…!待て、上着が―」
「いいから早く!皆が起きる前に大きな雪だるま作って、驚かそう!」
白み初めた空に、天空から真っ白な結晶が舞う。
「一番乗りだよ!足跡付けとこ!」
「こんなに降ってちゃ、すぐ埋まるぞ。」
ナルの声にも耳を貸さず、ジーンはおおはしゃぎで辺りを駆け回る。

そんな姿を見ながらナルは、
「メリークリスマス。」
と、ジーンに微笑む。
「メリークリスマス!なんて最高のプレゼントだ!」

その後、朝一番に顔面に雪を投げつけられたナルの復讐によって、
派手な雪合戦が繰り広げられ、雪だるま作りは未完に終わった。

帰りの列車の中で、疲れた2人が爆睡したのは、言うまでも無い。

001209703 works

面目ない…。
何をまた性懲りもなく…。
正味2時間ほどで書いたなんて言えない(言ってる)。

精進致します。

ていうか、壁紙まで作ってるし自分…。

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